風俗の灯
「先生、なんでまた、風俗の仕事になんか携わってはりますの?」
ときおり、相談者からこのように尋ねられることがあります。仕事のイメージを損なうのではないかと、気遣ってくれているのでしょう。
実際、風俗営業の許可申請・届出にも携わっているということで、一般企業からの契約を打ち切られたこともあります。風俗関係を扱うのを止めてしまおうかと思ったこともあります。
「風俗は必要悪だ」と言われることがあります。これは主に風俗業界側からの言い分です。「風俗がなければ、性犯罪が激増する」というわけです。
僕自身、そうは思いません。風俗がなくなっても、けっして性犯罪は増えないと考えます。あるいは、必要悪だとも思いません。むしろ、なければないにこしたことはないと思っています。必要悪、性犯罪が増えるというのは、あくまでも業界側の都合のいい言い分です。
では、なぜ僕自身、携わっているのか。僕はおよそ10年間に渡って、出版社、編集者側の立場として、風俗店の取材等に関ってきました。その際、様々な人間模様を垣間見てきました。
風俗嬢として働く女性はもちろんのこと、男性従業員、店長、支配人、そして経営者…。中には風俗で稼ぎまくっている人も大勢います。一方で、そこには格差社会における多くの弱者も存在しています。あえていえば、「風俗業界だから雇ってくれた」という従業員も少なくありません。
一般企業は弱者に優しくはありません。例えばデジタル業界。機械化するよりも、派遣や偽装請負で人間を使ったほうが、安上がりだと考えられています。悲しいかな、ロボットよりも、人間のほうが安いのです。製品のサイクルがあまりにも早いため、新製品に合わせてその度に機械のシステムを変更するのは多額のお金がかかります。けど、人間ならば、マニュアルを変更するだけで、システムの変更も可能というわけです。
そんな状況で、ロボット以下の扱いをされて働くことに比べたら、風俗業界のほうがよほどマシではないかと思えるときもあります。
かといって、けっして風俗業を勧めるわけではありません。風俗業もある意味、働く女性からの搾取で成り立っている商売です。ただ、日雇派遣ではなかなか生活を立て直すことはできませんが、男であろうと女であろうと、風俗に一時的に身を置き、生活を立て直すという選択肢がひとつ用意されていても、それはそれでいいのではないかと思うわけです。
経営者についても、年を取ったため、店から解雇され、仕方なく自分でデリヘルを立ち上げたという男性もいます。一度、風俗業界に身を置いた中年男性を雇ってくれる一般企業はまずありません。
ただし、風俗業は誰もが成功するというものでもありません。風俗業界にも今や格差は生じています。フランチャイズ店やグループ店に押され、個人の店はなかなか成功しずらい一面もあります。一般の小売店と全く同じ状況です。女性も、誰もが簡単に稼げるというわけでもありません。ある女の子の言葉が印象的です。
「風俗で通用しない女の子は、普通の会社に入っても通用しない」
また、祇園や新地でのクラブ勤めは認められても、性風俗は認められないという価値観にも異議を感じます。世の中、例え間接的であろうと、身体を売りにしているホステスも少なからずやいます。
この意見に対しては、ホステス側からの反論を食らうことでしょう。それでいいんです。おそらく、その反論こそが、そのホステスのプライドなのですから。
先の風俗嬢の言葉も、彼女なりのプライドの表れです。プライドの中身をあれこれ言うのは止めましょう。まずはプライドを持つこと自体、大事なことだと思います。
そんなわけで、僕は風俗業界に携わっています。僕自身、都合のいいように自己を正当化している一面もあるかもしれません。もっと正直に言えば、お金のために携わっている部分もあります。ただ、世界は表もあれば裏もあります。たとえ裏側であろうと、頑張っている人には素直に応援したい、そこに一般企業、風俗業の隔たりは持っていません。ご理解いただければ、お手伝いをさせていただきたいと思っています。