デリデリブルース
現役風俗嬢、あるいは元風俗嬢を対象としたルポやドキュメント(書籍)は少なくない。が、男についてはどうだろう。男、つまりは風俗営業の開業者や経営者。これについては、書籍などはほとんど見かけられない。
なぜか。早い話が、あまりおもしろくはない、書籍化しても売れそうにないからであろう。しかし、実際に開業に携わっている立場からすれば、けっしてそんなことはない。おもしろくないどころか、むしろ興味深い背景を抱えながら、僕のところに依頼にやって来る。まず思うのは、世間一般のイメージとはまるで違うこと。世間一般では、例えばデリヘルを開業したいと考える男性に対し、どのようなイメージを持っているだろうか。
「楽して金儲けができると思っている」
「アダルト産業が好き」
「元々、その業界にいた人たち」
そんなところだろうか。もちろん、中にはそう考え、開業を決意する人もいるだろうが、実際は少数だ。現実には、誰も楽して儲けられるとはけっして思ってやいやしないし、元々は全く別の業界にいた人たちのほうが多い。
そのあたりのドキュメントを一冊の本にしろと言われれば、ネタはいくらでもある。そもそも僕は、元は出版業界の片隅に身を置いていた人間だ。だが、今は守秘義務を背負う立場。書きたいけど書けないドキュメントを数多く眠らせているといったところだ。
あえて述べるとしたら、まず感じるのは、そりゃぁ、誰だってアダルト産業ではなく、世間で言うところの「まっとうな」業界で生きていたいと思っているということ。しかし、今の時代、誰もが「中流」「ほどほど」に生きていけるわけではない。
されど金は常に必要だ。とはいえ、自分が身を置いていた業界では食ってはいけない。ならばどうするか。単純だ。業種変更するしかない。そこで、選択肢として挙げたのが、アダルト産業だ。
就職すればいい? 冗談じゃない。ハローワークで募集している条件で家族が飯食っていけるのか。ハローワークで月給30万以上の仕事は悪徳か、さもなければ歩合をこなして初めてもらえる額だったりする。年齢不問というのも嘘八百。
根気よく探すにしても、失業保険を貰える人はまだいい。世の中、失業保険を貰えぬ人もごまんといる(俺もそうだ)。ならば、手持ちの金が尽きる前に、その金を開業資金として何か事業を立ち上げたい、そう考えるのはものすごく「まっとう」な姿勢ではなかろうか(俺もそうだった)。
そして僕は、そんな人たちが好きだ。だって、彼らは少なくとも自分自身の手でなんとかしようとしている人たちだから。みんな、頑張っている。不器用かもしれない。それでも、頑張っている。今夜も月夜を見上げながら。
(2010.12.17)